1.社会・治安情勢
(1)一般治安情勢
本年7月~9月においても強盗・窃盗事件や銃器を使った殺人事件が多発しており,フィリピンの治安情勢は引き続き注意を要する。
特にマニラ首都圏における強盗,窃盗事件は依然として多発しており,邦人観光客が睡眠薬強盗や窃盗被害に遭う事例が後を絶たない。また,現職警官や偽警官などによる強盗,恐喝事件も発生しており,十分な注意が必要である。
なお,フィリピンにおいては銃規制の緩さから些細なことから生死にかかわる事態に発展する危険性があることを十分認識し,特に夜間は歓楽街や人通りの少ない裏通りの一人歩きを避ける,万一被害に遭遇した際は無理な抵抗はせず冷静に対処する,口論や争いを避け他人の恨みを買わないよう言動に注意する,など慎重に行動する必要がある。
(2)政治的安定度
2010年6月に就任したアキノ大統領は,国民からの高い支持率を背景に,汚職,腐敗の撲滅,治安強化及びミンダナオ和平推進を重要政策として掲げており,本年5月の中間選挙においても政権与党が勝利するなど,安定的に政権を運営してきている。
(3)反政府勢力の動き
2012年10月,比政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間でミンダナオ和平への道筋を示した「枠組み合意」が署名されたところ,和平合意に向けた協議が最終局面を迎えており,予断を許さない状況にある。
特に,本年9月9日,ミンダナオ地方サンボアンガ市において,政府とMILFの和平プロセスに不満を抱くモロ民族解放戦線(MNLF)の一部勢力が,約200人の住民を人質に取って市街地に立てこもり,国軍や警察等治安機関と大規模な衝突を繰り返し,サンボアンガ市では公共施設,学校や空港が閉鎖されるなど都市機能が麻痺する事態となった。これに伴い,マニラ首都圏においても潜在的な危険性が認められることから,治安当局は警戒レベルを引き上げ警戒にあたっている。
その他,アブ・サヤフ・グループ(ASG)やジュマ・イスラミヤ(JI)などイスラム武装勢力は,引き続き国軍等治安部隊との間で交戦しており,ミンダナオ地方の治安情勢については依然として不安定要因が大きい。
さらに,共産主義武装勢力である新人民軍(NPA)は,ミンダナオ地域,ルソン地域及びビサヤ地域の広い範囲で国軍と交戦し,また「革命税」の支払を拒否する企業への襲撃,資金獲得の為の誘拐等を継続して行っており,引き続き十分な注意が必要である。
(4)対日感情
概ね良好である。
2.一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
(1)フィリピン国家警察が発表した犯罪発生件数によれば,2013年4月から6月の犯罪種別の内訳は以下のとおり。
殺人 3,217件
殺人未遂 29,482件
強姦 1,432件
強盗 8,860件
窃盗・スリ・ひったくり 21,085件
車両強盗 2,082件
(2)邦人被害事案
(ア)7月中旬,首都圏マニラ市内のショッピングモール内で,邦人男性観光客が7人組の少女に体当たりされ,現金等が入った鞄を持ち逃げされる。
(イ)8月上旬,首都圏ダギッグ市の繁華街で邦人学生1名を含むグループが何者かに暴行を受け重傷。
(ウ)8月中旬,首都圏マニラ市マラテ地区の路上で邦人男性観光客が子供数人に囲まれ,現金の入った財布を奪われる。
(エ)8月中旬,首都圏マカティ市内で邦人ビジネスマンがタクシーに同乗してきた比人男性2人に現金と携帯電話を強奪される。
(オ)8月下旬,首都圏マニラ市のリサール公園を歩いていた邦人女性観光客が日本語を話す比人7人組に声をかけられ,一緒に食事をしたところ意識を失い,現金等を奪われる。
(カ)9月上旬,首都圏マニラ市エルミタ地区の路上を一人で歩いていた邦人男性観光客が,財布等の入った鞄をひったくられる。
(3)邦人以外の被害事案
(ア)7月上旬,首都圏パサイ市を走行中の路線バス車内で,鞄を奪われそうになった乗客が抵抗したところ,銃で撃たれ重傷。
(イ)7月下旬,首都圏パラニャーケ市内で,女性会社員がタクシーを呼び止めたところ,近くにいた2人組に拳銃を突きつけられ,タクシー車内で現金等を奪われる。
(ウ)7月下旬,首都圏ケソン市内で地元新聞社の編集者が何者かに射殺される。
(エ)8月下旬,シンガポール人男性が路上の花売りの少女に財布を抜き取られる。
(オ)9月下旬,ルソン地方パンパンガ州で貿易商宅に強盗が押し入り,一家8人を殺害の上現金を奪って逃走。
(カ)9月下旬,首都圏警察ケソン本部の現職警官が経営者から多額の現金を恐喝したとして逮捕される。
4.誘拐・脅迫事件発生状況
誘拐は,特にミンダナオ地方の広い地域で多く発生しており,主に実業家,中国系フィリピン人を狙った身代金目的の誘拐が多発している。こうした中,本年5月,米国務省はサンボアンガ市において外国人を標的とする具体的な誘拐脅威情報があるとして,自国民に対し注意喚起を行ったほか,在フィリピン日本国大使館では,同市においてアブ・サヤフ・グループ(ASG)が日本人を標的とした誘拐計画を立てているとの情報に接し,在留邦人に対して注意喚起を行っている。
(1)7月中旬,首都圏ケソン市内の貿易会社に武装集団が押し入り,中国系フィリピン人女性を誘拐。
(2)7月下旬,ルソン地方ヌエバエシハ州で地方銀行の重役夫妻が武装した7人組に拉致される。
(3)8月下旬,首都圏マニラ市内のショッピングモールでクウェート人男性が拉致される。
5.日本企業の安全に関する諸問題
当地においては,一般的に企業及び個人に対する恐喝,脅迫,誘拐等が少なくなく,日系企業(社員)に対する脅迫事件も発生するなど,進出日系企業関係者にとっては,企業自体及び社員の安全に対しては常時注意を要する。特に,NPAは,環境破壊,住民搾取等の名目で「革命税」を民間企業に要求し,企業側が応じない場合には,企業への脅迫,恐喝等の行為や襲撃するなどしていることから,現地採用職員の動向も含め,日頃から情報収集を行うなど十分な注意が必要である。