3月14日、石川和秀駐フィリピン大使は、ミンダナオ島コタバト市において、今年度の J-BIRD 草の根・人間の安全保障無償資金協力5案件について、各被供与団体との間で、贈与契約に署名しました。署名式には、カムリアン・バンサモロ移行委員会委員、バカニ・フィリピン政府和平交渉団員、ディパトゥアン・バンサモロ開発庁長官等が出席しました。
今回署名が行なわれた5案件の総額は480,598米ドル(約5,300万円)であり、これらはミンダナオ和平と開発に対する我が国のコミットメントの一環です。5件の内訳(※)は、教育案件3件、農業案件2件です。
我が国は、2006年よりミンダナオ和平支援案件をJ-BIRD (Japan-Bangsamoro Initiative for Reconstruction and Development) と総称し、元紛争地域に対する草の根・人間の安全保障無償資金協力など経済協力プロジェクトを集中的に実施しており、その総額はこれまで2億ドル以上になります。2006年の立ち上げ以来、J-BIRD案件として実施を決定した草の根・人間の安全保障無償資金協力は87件にのぼり、その総額は約7.67百万米ドル(約7億5千万円)となっています。
また、昨年6月には、アキノ大統領の国賓訪日の際の日比首脳会談において、安倍総理大臣は、ミンダナオの永続的な和平について、フィリピンの取組への支持に加え、我が国は新自治政府設立を念頭にJ-BIRDⅡ(バンサモロ地域の経済的自立の確保に一層焦点を当ててJ-BIRDを新たなフェーズで進めるもの)の支援を進める旨表明しました。
石川大使は署名式でのスピーチの中で、今後も我が国はミンダナオの恒久的な和平実現のためにJ-BIRD等を通じて支援を継続すると改めて強調しました。
今回署名が行われた5案件が、同地域の将来の平和と安定に寄与することを期待しています。
《(※) 今年度の案件概要》
1.『マギンダナオ州アンパツアン町の農民に対する収穫後処理施設整備計画』
資金供与額:94,973米ドル(約1,050万円)
被供与団体:Lower Riverside Farmers Multi-Purpose Cooperative
アンパツアン町の主要産業は農業であり、主要作物はコメとトウモロコシです。しかしながら、両作物の作付面積は広いものの作物収穫量は極めて低いため、農家は貧困に窮しています。更には、同町の農民は、農業機械や収穫後利用施設について高い利用料を支払って借用せざるを得ず、農家の収入は大きく圧迫され、貧困に留め置かれていることから、農業機械の整備が喫急の課題となっていました。
本件事業は、アンパツアン町カマシ周辺の農民の生計向上、労力軽減等を図るため、収穫物の乾燥施設及び倉庫を建設するとともに、トウモロコシ脱穀機2台、耕耘用アタッチメント2種類、トラクタ1台、コメ脱穀機を整備するものであり、同町の農民1,400名が裨益し、農民の社会経済状況の改善が期待されています。
2.『ラナオ・デル・ノルテ州における小規模・零細農家のための農業用トラクタ整備計画』
資金供与額:79,659米ドル(約870万円)
被供与団体:Lanao Intercultural Convergence for Development and Peace, Inc.
ラナオ・デル・ノルテに位置するカウスワガン町では、長年に渡り、比政府軍とイスラムの反政府勢力との紛争が続き、住民はしばしば避難を余儀なくされ、その際に水牛等を売却してしまった農家も多く、避難先から戻ってきた現在、営農の手段を再度確保することが難しくなっています。農家の80%は所有農地面積2ha未満の小規模・零細農家で、残り20%が農地を所有しない小作農となっており、農家には経済的余裕はなく貧困に喘いでいます。
本件事業では、ラナオ・デル・ノルテ州の元紛争地域の小規模・零細農家を対象に、安価で貸し出し等を行うことを目的として、被供与団体に対し農業用トラクタ1台及び倉庫1棟を供与します。農業生産性の向上及び農作業の効率化が促進し、農家の生計向上を図るものであり、300世帯の生計向上が期待されています。
3.『マギンダナオ州コタバト市アル・アザイレ小中学校における教室整備計画』
資金供与額:101,494米ドル(約1,100万円)
被供与団体:Al-Amanah Humanitarian and Development Services, Inc.
アル・アザイレ小中学校は、2009年にコンクリート製の4教室が建設されて開校し、その後、生徒数の増加(現在生徒1,037名、教員25名が在籍)に伴い、教室不足を補うべく、同校の資金により仮設教室2棟(6室、3室)が建設されました。しかしながら、同仮設教室は簡素なものであり、現在、その傷みが激しい状況にあります。カーテンのみで仕切られた仮設教室の屋根は、今にも崩落しそうであり、雨季には雨漏りや雨水が屋内に浸入し、教室の一部は使用できない状況になることから、安全で安定的な学習環境の提供が喫緊の課題となっていました。
本件事業では、アル・アザイレ小中学校に対して、老朽化が激しい6教室を取り壊し、新たに2階建ての校舎1棟(6教室、トイレ2室)とあわせて机・イス等の備品を整備します。同校の生徒(主にムスリム教徒)1,037名および教員が裨益し、将来を担う子供たちの適切な学習環境の確保が期待されています。
4.『アグサン・デル・スール州バユガン町バユガン総合中等学校における教室整備計画』
資金供与額:102,333米ドル(約1,100万円)
被供与団体:Philam Foundation, Inc.
バユガン総合中等学校は、貧困に喘ぐ同地域の中でも、比較的充実した教育を提供する公立中等学校として貴重な存在となっており、現在生徒数は6,000名以上に達しています。現在、同校は93教室を保有しているものの、年々増加する生徒数に教室の整備が追いついておらず、1教室当たりの生徒数は約60名(45~50名が標準)と過密状態にあります。また、一部の教室は壁のない簡易的な造りになっている他、老朽化が進んだ教室も多く(計25教室)、生徒は劣悪な環境下での学習を強いられており、教室の整備が喫急の課題となっていました。
本件事業は、バユガン総合中等学校に対して、5教室の建設及び備品(黒板5枚、生徒用机付き椅子250脚、教師用机・椅子5セット)を整備するものです。同校に通う6,219名の生徒が裨益し、ミンダナオ地域における教育環境を整えることを通じて、同地域の貧困削減を図ります。
5.『マギンダナオ州パガルンガン町におけるカルブガン小学校教室整備計画』
資金供与額:102,139米ドル(約1,100万円)
被供与団体:Mindanao Children’s Library Foundation, Inc.
ムスリム地域であるパガルンガン町の貧困率は67.7%に達しており、同地区のインフラ整備は遅れています。95%の世帯で電気が利用できず、上下水道設備が整備されていません。このような地域に位置するカルブガン小学校では、教室数が不足しており、屋外のステージで学習している生徒もいます。また、既存の教室の一部は、木造の簡素な造りであり、河川に近い立地のため雨季を中心の洪水が多発し、扉、壁、床、椅子などが激しい損傷を受けており、洪水が発生した際には授業を中断せざるを得ず、児童は厳しい学習環境を強いられています。
本件事業では、カルブガン小学校に対し、1校舎5教室及び備品(生徒用机付イス130脚及び黒板5枚)を整備します。建設される校舎は洪水に備えるために嵩上げされ、安全で衛生的な学習環境を確保することが期待されており、本件実施により、同校の生徒213名と教員7名が裨益します。

1. Lower Riverside Farmers Multi-purpose
Cooperative |

2. Lanao Intercultural Convergence for
Development and Peace, Inc. |

3. Al-Amanah Humanitarian and Development
Services, Inc. |

4. Philam Foundation, Inc.
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5. Mindanao Children’s Library Foundation, Inc. |
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(了)